大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所八王子支部 昭和39年(わ)822号 決定 1964年5月20日

被告人 S(昭二一・一二・二二)

主文

本件を東京家庭裁判所八王子支部に移送する。

理由

当公廷における事実審理の結果によれば本件公訴事実はその証明十分であり、次の如く罪となるべき事実が認定される。即ち、

被告人○田ことSは少年法第二条にいわゆる少年で、母○田○の○と土建下請業をしていた韓国人の父との間の末子として生れた。昭和二五年父の死亡後は母が働き被告人と三人の女児を育ててきたもので、子供達に接している時間も少く家庭における指導養育も不十分であつた。

被告人は右のような家庭事情のため小学校への入学も遅れ、昭和三六年四月漸く昭島市立○○小学校第六学年へ進級したが悪友と行動を共にし窃盗、恐喝等の非行を重ね教護施設に収容されては逝走してくるという状態を繰りかえし、義務教育も満足には修業していない。

本件当時被告人の三人の姉は立川市等のいずれもバーの女給をしており、被告人は母とその収入により二人で生活していたものであるが、昭和三八年三月頃一時職に就いたことがあるも落着かず、異性との交渉も多く、無為徒食して立川辺の不良徒輩と交遊している類の者であるが、未だ嘗て少年院へ収容された経歴はない。

第一  昭和三八年九月○日午前零時頃、被告人は○淵○行ことY(昭和一九年六月生)およびシュウジことK(昭和二二年六月生)と共に立川市○町○丁目所在電話局附近路上で、酩酊して駐車中の自動車に寄りかかつている○藤○雄(当四〇年)を認めるや、被告人等三名共謀のうえ同人から金員を強取せんことを企て、同人を同市○町○丁目○○○番地先空地に連行して取り囲んだうえ金を貸してくれ等と申し向け、被告人は右○藤の顔面を欧打し更にその場に倒れた同人の頭部等を木の棒で強く殴打しYやKにおいて右○藤を足蹴りにする等の暴行を加えてその反抗を抑圧し、同人所有の現金合計一万五、〇五〇円位および万年筆等合計六点を強取したが、右暴行により同人に対し治療約三四日間を要する顔面挫創、腹部挫傷等の傷害を負わせ、

第二、被告人は遊び仲間である他一一名の少年と共謀のうえ、所謂アベックから金員を喝取しようと企て、同年一〇月○日午後一一時過頃同市○○町一丁目○○○番地先○○神社境内において、折柄連れ立つて歩行中のタイル工○本○弘(当二二年)および工員○元○子(当一七年)の両名を取り囲み因念をつけ、交々右○本○弘の顔面を手拳で殴打し、或は足蹴りにする等の暴行を加えたうえ、「金を持つていないか」等と申し向け、同人等をして右要求に応じなければ更に如何なる危害を加えられるかもしれない旨畏怖させ因つて即時同所において、右両名から各現金五七〇円の交付を受けてこれを喝取し

たものである。

(保護処分を相当とする理由)

被告人には前記認定事実の他にも非行があるように窺われ又特に本件強盗傷人事件においてはその被害者に対する暴行行為は目を覆わしめるものがあり犯情まことに悪質であるが、一方被告人は過去において在宅試験観察に付せられた外に保護処分を受けた経験がなく、その年齢も犯行時満一六年であり現在満一七年六ヵ月の若年であること、前記被告人の生育環境、就学程度その他諸般の事情を考慮し、被告人の更生を期待して、此の際直ちに刑事処分に付して不定期刑を以て臨むよりは保護処分に付するのを相当と認め、少年法第五五条により、本件を東京家庭裁判所八王子支部に移送することとし、訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項但書により全部被告人に之を負担させないこととする。

よつて、主文の通り決定する。

(裁判長裁判官 樋口和博 裁判官 中村憲一郎 裁判官 中橋正夫)

参考

受移送家裁決定

(東京家裁八王子支部 昭三九(少)一五五三号 昭三九・五・二七決定 報告四号)

主文

少年を特別少年院に送致する。

理由

(犯罪事実)

昭和三九年五月二〇日付東京地方裁判所八王子支部裁判官作成決定書記載の罪となるべき事実の記載を引用する。

この事実は刑法二四〇条二四九条に該当し、少年に対しては収容保護の必要があると認めるから、少年法二四条一項三号少年審判規則第三七条一項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 村崎満)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例